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“韓国鉄道博物館 2022年再訪”


地下鉄1号線から直通する韓国鉄道公社 KORAIL の首都圏電鉄1号線に乗り、ソウルから1時間ほどで到着するのが義王駅。

▲ 鉄道博物館の横を行く京釜電鉄線の電車

2006年以来、16年ぶりに訪れたら駅名の表記が難しい漢字の“儀旺”から“義王”に変更になっていた。発音はいずれも“ウイワン”で、中央日報の記事によると18世紀以来“儀旺”と間違った字を使ってきた市の名称を“義王”に戻したことによるのだとか。

駅舎は変わらないが、建物の正面左側に隣接してエスカレータが設置され、バリアフリー化が進むとともに、ホームドアが設けられていた。韓国の地下鉄や広域電鉄路線では、東京メトロ南北線のような背の高いホームドアにより、列車の写真が撮れない駅が大半。

▲ 韓国鉄道公社京釜電鉄線義王駅

駅から南(釜山方面)へ、線路沿いの道を歩いて10分余り、横を走る複々線の京釜線の列車や京釜電鉄線の車窓からも見える鐵道博物館の大きな看板。

▲ 鉄道博物館の看板

フェンスの外からも、屋外に保存されている車両がよく見える。

▲ 鉄道博物館の入り口

入場料は4歳以上18歳までの子供と学生が₩1000(約100円)、それ以上65歳未満の大人が₩2000と格安で、4歳未満と65歳以上は無料。

▲ 入場券の窓口

まずは、屋外に展示されている車両から見ていきましょう。

入口のすぐ前には、2006年の訪問時にはなかった同じ外観の緑の車両が2編成。向かって左は、パクチョウンヒ(朴正煕)政権時代の1969年に導入した、日本車両製の大統領専用車。右はチョンドファン(全斗煥)政権下の1985年に韓国の大宇重工業が製造した警護員用車両。キムデジュン(金大中)政権下の2001年に、セマウル号のディーゼルカーをベースにした4両編成の大統領や国賓専用車、“慶福号”が登場するまで、5代にわたって大統領が乗車。

1960年代の日本の国鉄485系電車のような、ボンネットタイプの高運転台。21世紀になって韓国新幹線KTXが導入されるまで、一部の山岳路線や通勤電車を除いて韓国の鉄道は非電化路線が大半であったため、これらの車両はディーゼルカー。

▲ 大統領専用車両(左)と警護員用車両(右)

大統領専用車には、左右のヘッドライトの間にこんなエンブレム。鳳凰と国花ムグンファ(無窮花)をデザインしたものでしょう。この編成の後方のもう1両や、隣の警護員用車両には取り付けの台座だけ。

▲ 大統領専用車のエンブレム

特別車両なのに、台車は空気バネを採用せずオールコイルバネ。連結面側の台車にモーターを装備しているので、電気式のディーゼルカーらしい。

▲ モーターを装備する連結面側の動力台車

ボデーマウントで台車部分以外の床下は見えないが、騒音を避けるため先頭のボンネット部分にディーゼル発電機等を搭載しているものと推測。

▲ 先頭の付随台車

内には入れず、防弾ガラスの窓から中を窺うだけだが、鳳凰の貼ってある窓の向こうにはソファーが並ぶ。二重ガラスの反射で偏光フィルタを使用しても反射で撮りにくい。

▲ 車内にソファー

セマウル号の特室のような、大きなリクライニングシートを備えたテーブル席の部屋もあるけど、倒すと後ろのシートの背面に当たっている。

▲ リクライニングシートの部屋も

警護員用車両の車内は、回転式のクロスシート。

▲ 警護員用車両の車内

背面にテーブルがあるので、ムグンファ号一般室以上、セマウル号の一般室以下のグレード。

▲ 回転式クロスシート

その隣の紺色の車両は、2021年に中央線の改良による高速化で営業運転を開始した、韓国初の動力分散式準高速列車、KTX-イウムのモックアップらしい。

▲ 高速列車KTX-EUMのモックアップ

こちらは車内に立ち入っての見学が可能。

▲ 台車は描いてあるだけ

回転式のリクライニングシートが並ぶ一般席。テーブルは、KTXやKTX-山川と同様に前席背面の下から引き上げて手前に倒す方式。

▲ 一般席

運転室側には、シートピッチが広がり枕の付いた優等席。KTXやKTX-山川、かつてのセマウル後の特室のような2+1の配列ではなく、一般席と同じ2+2配列の優等席。何故かアクリル板を立てて、着席できないようにしている。

モックアップでは1両が一般席と優等席の合造車になっているが、営業中のKTX-EUMでは6両編成のうち片側の先頭車1両だけが優等席。一般席と特室に比べて、運賃の差が小さいプレミアムエコノミーのような存在のよう。

▲ 優等席

営業列車では立ち入れない運転室は、こんなイメージ。

▲ 運転室

ここからは、屋外に展示されている車両を反時計回りに順に見ていくことに。16年前の前回訪問時とほぼ同じ顔ぶれ。

屋根の下に保存されたミカサ型蒸気機関車161号機。日本のD51と同じ1D1の軸配置(ミカド)の貨物用だが、全長22mで標準軌の大陸サイズ。アメリカンスタイルだが1940年の日本車両製で、朝鮮総督府鉄道(鮮鉄)のオリジナル設計。

▲ ミカサ型蒸気機関車

釜山から京城(ソウル)を経て満州国境の新義州までの幹線等で貨物輸送に従事。ディーゼル化後に本機は、1981年から1983年まで、釜山から東海南部線で観光列車を牽引。

大きなテンダにはベッテンドルフタイプのボギー台車。

▲ 大きなテンダ

クルマや地下鉄と異なり、韓国の鉄道は左側通行なので、日本と同様に左側が機関士席。

▲ ミカサ型のキャブ

韓国の鉄道の主な列車種別は、高速列車のKTXと特急相当のセマウル号、急行相当のムグンファ(無窮花)号で、各駅停車のトングンヨルチャ(通勤列車)は消滅したようだが、かつては準急相当のトンイル(統一)号と普通列車ピドゥルギ号を運行。

紺とクリームのピドゥルギ号塗色のディーゼルカーは、日本から輸出した159両が首都圏電鉄開通前にはソウル周辺で活躍し、その後は地方に分散したのだとか。

日本の国鉄キハ52をベースにした180PSのエンジンを2台装備する両運転台の672号は、1963年の新潟鐵工所製。当初はソウル-仁川間に投入され廃車は1987年。側面窓が一段で2箇所のドアが2枚折戸になっているところが日本と異なり、最高速度はキハ52を上回る105km/h。

▲ 普通列車ピドゥルギ号のディーゼルカー

乗務員室扉の後ろの柵のようなものは、タブレット受け取り時の窓ガラス破損防止カバーでしょう。

車内には立ち入れないが、窓越しに見ると日本と同じボックスシート。博物館にはもう1両、川崎車輌製のディーゼルカーも保存されているが、こちらはドアが日本と同じ引き戸で、その後の改造かもしれないがロングシート。

▲ ボックスシートのピドゥルギ号

ディーゼルカーの横に置かれた、ベンツのマークがある緑色のディーゼルエンジン。V型8気筒のようだが、高さからみてディーゼルカーの床下にはおさまらず、何に使っていたのでしょうか。

▲ ベンツのエンジン

電気式ディーゼル機関車3102号はアメリカンロコモティブ製で、1966年から2000年まで稼働。当初は、ソウル-釜山間のムグンファ号を牽引して6時間3分で走破。それまでのトンイル号より30分短縮したのだとか

▲ 3100型電気式ディーゼル機関車

紺とクリームのピドゥルギ号塗色の電車1000型のトップナンバー1001号は、日本のから輸入した韓国初の通勤電車。1974年に開通したソウル地下鉄1号線と相互乗り入れを行う京釜電鉄線に導入。先頭の制御車は営団地下鉄乗り入れ用の国鉄301系に似ているが、103系1000番台や1200番台と同じ鋼製車体。

▲ 韓国初の通勤電車 日本製の1001号

日本の国鉄103系のTR62によく似た日立製の台車。

▲ 日本の103系とよく似た台車

塗色変更後の中間車1315号は、1977年から国産に移行した韓国製。韓国語と英語の説明では付随車となっていて、台車内のモータの有無は未確認だが、屋根にはパンタグラフが乗り、戸袋部分にモータの冷却用空気取り入れ口らしきルーバーがあるので電動車と推測。最高速度100km/h。

地下鉄線内は直流1500V、国鉄線内は交流2.5kVのため交直両用車で、手前に置かれた碍子類は屋根上の機器でしょうか。

▲ 中間車1315号

1315号のみ車内の見学ができるが、一番奥の連結面よりの座席以外は、何故かドアと座席を仕切るパイプや吊革が撤去されている。

▲ 1315号の車内

貫通扉から覗いた1001号の車内は、冷房改造がなされている以外はオリジナルのよう。大陸サイズで、日本より車体幅が広い。

▲ 1001号の車内

もう1両の制御車1115号も、韓国製の1000型1次車。仕様は日本からの輸入車と同じでしょう。

▲ 韓国製の1115号

ピドゥルギ号の客車12061号は、1959年の国鉄ソウル鉄道工場製。試作客車として、しばらく急行列車用に使用された後、1967年からはピドゥルギ号に。日本では見かけない、枕バネも軸バネも板バネで構成している台車を履いているが、最高速度は110km/h。

▲ ピドゥルギ号の客車

車内は、2連の窓で構成するボックスシート。大陸サイズで車体が大きいが、座席定員が118名と多いのは1ボックス6人の計算か。

▲ ボックスシートの車内

1965年製でクリームと緑のトンイル号塗色の客車13101号は、客車の重量を軽減して牽引する機関車のエネルギー削減を目指した軽量客車の試作車。これ以前の客車の36トンから30トンに6トン軽量化することで、最高速度120km/hを実現。

▲ トンイル号の軽量客車

車内は転換式のクロスシート。

▲ 転換式クロスシートの車内

日本の技術が入っているのか、日本の10系軽量客車のTR50によく似た台車を履いている。

▲ 日本の軽量客車とよく似た台車

車体長の短い905号は暖房車。電気暖房システムのない客車に、暖房用の蒸気を供給する車両。車内にはディーゼルエンジン、蒸気発生器、エアコンプレッサー、発電機、水タンクを搭載。1965年から1987年まで、冬季に客車列車に連結 。

▲ 暖房車

窓から覗いた車内の設備。

▲ 水タンクでしょうか

発電エンジンと蒸気発生器でしょうか。

▲ 発電エンジン

18011号は、1965年に国鉄仁川車両工場で製造された軌間762mmの狭軌の客車で1987年まで使用。韓国国鉄の狭軌路線には、スオン(水原)とインチョン(仁川)を結ぶ水仁線(1994年廃止)と、水原とヨジュ(驪州)間の水驪線(1972年廃止)があり、現在は広域電鉄線や鉄輪新交通システムとして、多くの区間で路線が復活。

▲ 狭軌の水仁線の客車

車内はロングシートで、一端にトイレ。片側2箇所のドアは2枚折戸。天井には白熱灯とベンチレータが交互に並ぶ。

▲ 車内はロングシート 奥にトイレ

他端にはハンドブレーキを装備。

▲ 一端にハンドブレーキ

台車は日本の戦前型気動車によく似た、簡易な菱枠型。

▲ 狭軌客車の台車


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