旅の車窓から 英国植民地時代の香港 |
---|
電車ファンには楽しい香港
1989年の年末に香港に行きました。まだ、イギリスの植民地だった時代です。当時すでに1997年に香港が中国に返還されることが決まっており、50年間は従来の制度を維持することがイギリスと中国の間で取り交わされていました。でも、この年の6月に北京でおきた天安門事件は香港の人々に強い衝撃を与え、将来の不安からオーストラリアやカナダへの移住が急増している時代でした。
植民地時代の香港は、アヘン戦争によって清国からイギリスに割譲された香港島及び周辺の島々と九龍半島の一部、及び99年間にわたって清国からイギリスが租借していた九龍半島の背後に広がる新界から構成されていました。
租借期限となる1997年に、今後50年間は従来の体制を継続することを前提に、割譲された部分も含め全体が中国に返還され、香港特別行政区となって現在に至っています。
私が訪問してから十数年。中国の一部になった香港では、街中のビルの屋上をかすめるように、急旋回して飛行機が着陸していた啓徳空港がランタオ島にできた新空港に移転し、悪の巣窟といわれた九龍城は撤去されて広い公園に生まれ変わり、街はますます発展しているようです。
香港には、中国広州とむすぶ九広鉄路や海底トンネルでむすばれて九龍半島と香港島に路線網を広げる地下鉄、香港島の名物2階建ての路面電車のほか、九龍半島の背後にある新界のベッドタウンには軽便鉄路(LRTの中国語訳でしょうか)とよばれる新型の路面電車の路線も網目のように広がり、電車ファンには楽しいところです。
お決まりの観光コースで3日間、香港と当時はポルトガル領であったマカオをめぐった後、フリーとなった4日目は、午前中は電車とバスを乗り継いで、香港郊外半日旅行に出かけ、午後は香港島の路面電車の乗車を楽しみました。
鉄道や路面電車が記載された香港の地図は、こちらをクリックしてください。
※ 3ページの末尾にそれぞれリンク先を設けました。詳しく知りたい方はご利用ください。
九広鉄路で新界へ
九広鉄路の香港側の始発、九龍の紅磡(ホンハム)駅は、ホテルや商店が建ち並ぶ九龍半島側の繁華街、尖沙咀(ツィムサーツィ)の東側にあります。ここから北に向かう列車は、ディーゼル機関車が客車を牽引する、広州や遠くは北京(北京行きは当時はありませんでした)に向かう1日数本の直通列車を除くと、大半が近郊電車で、頻繁に運転されています。
電車の行き先は、香港行政特別区内の終点羅湖(ローウ、中国本土の深圳に接しています)のほかに、途中折り返しが数多くあります。
券売機で切符を買ってホームに入ると、アルミ製だったかステンレス製だったか忘れましたが、先頭部分を黄色と黒に塗装した外吊り3扉の長い編成の電車が乗客を待っています。
![]() |
![]() |
上水駅で折り返し線に入る九広鉄路の電車 | 窓上の赤帯は1等車 |
当時の電車は、1983年の電化時に投入されたイギリス製で、車内は硬いプラスチック製のボックスシート。窓の上が赤く塗られた1等車ににだけ、クッションが張ってありました。車内のつり革は、ロンドンの地下鉄でも見られる、コイルスプリングの下についたプラスチックの黒い玉を握るようになった、日本では見かけないデザインです。
今では、先頭部分が丸みを帯びたデザインの、外吊り5扉車に置き換えられているようです。車内のレイアウトがどうなっているか。興味のあるところです。
当時は、中国のビザがないと羅湖までは行けないため、一つ手前の上水(ションスイ)行きに乗りました。所要時間は40分程度ですが、途中、香港のイメージとはかけ離れた、高層団地が林立する郊外のベッドタウンや、のどかな田園風景の車窓を楽しみながら、降り立った上水は田舎町でした。ホームで、電車の行き先を聞かれた(広東語なのでわかりませんが多分)けど、答えられませんでした。
二階建てのバスで元朗へ
上水の駅前から西に向かう元朗(ユンロン)行きのバスに乗ります。新界では、田舎でも九龍の街中を走っているのと同じ、2階建ての九龍巴士(バス)が走っています。ワンマンで乗車するときに運転手に運賃を支払います。いくらかわからないので、メモ用紙に“元朗 多少銭”と書いて見せました。運賃を言ってくれましたが、広東語ではわかりません。メモ用紙と鉛筆を運転手に渡して数字で書いてもらい、やっと支払うことができました。
![]() |
![]() |
上水から元朗へ向かう田舎道 | 元朗のバスターミナル |
早速、運転手の後ろの階段をあがって、2階のかぶりつきに座ります。イギリス製でしょう、ロンドンの2階建てバスと同じ車両です。日本の2階建てバスよりずっと背が高く、見晴らしがよくてとても気持ちの良い車窓を楽しめます。
バスは田舎道をひた走ります。やがて街が見えてきます。元朗です。路面電車の線路のひかれた街中の通りをしばらく進むと終点の元朗西バスターミナルに到着です。