中国青海チベット鉄道 天空列車 トイレの車窓から


青海チベット鉄道(青蔵鉄路)は、中国青海省の省都である西寧から、西蔵(チベット)自治区の拉薩(ラサ)まで、標高5072mの世界の鉄道最高地点を越える全長1956km、世界一の高原鉄道です。日本では、“天空列車”と呼ばれており、中国では“天路”と名付けています。

第1期工事として、途中の格爾木(ゴルムド)までは1984年に開業しています。中国の西部大開発を目指した第2期工事の格爾木−拉薩間1241kmが、2001年の着工からわずか5年の工期で2006年7月に開業すると、中国各地はもとより、日本や欧米からも大勢の観光客が青蔵鉄道に乗って拉薩を目指すようになりました。

▲ 青海チベット鉄道(青蔵鉄路)の始発 夕闇の迫る西寧駅 2007/9/20

青海チベット鉄道の旅客列車を中国の時刻表検索サイトで調べると、2007年9月現在では毎日の定期列車は以下の4本になっており(概ね特快→特急、快速→急行に相当)、昨年の開通時に比べ時刻改正と多少のスピードアップが行われています。

北京や上海、広州等から拉薩はあまりにも遠く、多くの外国人観光客は飛行機で西寧又は拉薩に入り、1日で青海チベット鉄道のハイライト区間を走破するN917次/N918次空調快速に乗車します。

この、N917次/N918次快速の混雑緩和のため、2007年8月1日から10月17日まで(西寧発の場合、拉薩発は8月2日から10月18日まで)西寧−拉薩間の臨時列車として、N919次/N920次空調快速が、続行便として運行されています。

▲ 長い編成の中間に連結された食堂車 西寧−N919次快速−拉薩 のサボ

西寧から拉薩まで、この臨時列車の硬臥(二等寝台)に乗車してきました。定期列車のN917次空調快速が、西寧発20:28→拉薩着が翌日の21:50に対し、臨時列車のN919次空調快速は、西寧発22:16→拉薩着が翌日の22:51です。

始発の西寧の高度は海抜2300m。駅では、列車別の待合室で改札時間まで待ちます。隣の上海行き夜行列車K375次空調快速の待合室は、'70年代の帰省シーズンの上野駅を思わせる大混雑ですが、拉薩行きは余裕があります。

発車の30分ほど前になると改札が始まり、地下道をくぐってホームに出ます。緑に黄色のライン、新車なのに塗色だけは古めかしい列車がホームに着き、各車両のデッキには1人ずつ車掌が立って、乗客の切符をチェックしています。指定された3号車の寝台ボックスにトランクを置き、暗い夜のホームに列車の観察に出かけます。

列車は拉薩側の先頭から、15〜12号車が硬臥(3段ベッド向かい合わせ1室6人の二等寝台)、11〜8号車が硬座(通路を挟んで4人がけと6人がけのボックスシートの二等車)、7号車が食堂車、6〜5号車が軟臥(2段ベッド向かい合わせ1室4人の一等寝台)、4〜1号車が硬臥、最後尾に電源車が付く16両編成で、先頭の機関車はまだ連結されていません。

▲ 格爾木(ゴルムド)まで牽引してきた中国製東風4D型ディーゼル機関車の重連が引きあげていく

列車が定刻に発車すると、車掌が各席をまわり切符と換票証(寝台番号が書かれたカード)を交換します。寝台の、上段、中段、下段で換票証の色を変えています。

続いて乗客健康登録用紙が配られ、住所、氏名、年齢、電話番号、列車、号車、寝台番号等を記入し、高度の高いところを旅行することを理解していることと、3000m以上の高度に耐えられる健康状態であること(漢字から推測してこのようなことが書かれていると思われます)の2ヶ所にチェックして署名します。

車掌がこの紙を回収して、発車から1時間余りで消灯。没みかけた上弦の月の明かりの中、車窓に海抜3260mにある琵琶湖の6倍の面積の青海湖が見えないか、目をこらしますが諦めてベッドに潜ります。

▲ 格爾木(ゴルムド)から先頭に立つ米国GE製のNJ2型ディーゼル機関車 天空列車専用機

翌朝8時20分頃に、列車は人口11万人で沿線最大の街、海抜2800mの格爾木(ゴルムド)に到着します。乗務員が扉を開けて板をデッキとホームの間に渡し、その先にカーペットをひきます。ここで下車する乗客もある程度います。

格爾木では、機関車を交換します。西寧から重連で牽引してきた、日本の国鉄特急色の中国製、東風4D型ディーゼル機関車が切り離されて引きあげていき、代わって客車と同じ緑に黄色の帯を締めた米国GE製のNJ2型の重連、青海チベット鉄道専用機が先頭に立ちます。

▲ 各車両には1人ずつ乗務員がいる デッキに赤い絨毯をひいて乗客を出迎える

この間、乗客も車掌も車外でしばし休憩です。格爾木の停車時間は20分程度。ここから先は、2006年に開通した区間に入り、高度も3000mから4000m以上へと登っていきます。

発車した列車の車内では、車掌が乗客にビニールチューブを配ります。寝台車では窓側と廊下側の壁に、座席車では座席の下に酸素供給用のコネクタがあり、高山病の発症等、必要に応じてビニールチューブを接続すれば、鼻から酸素吸入が受けられます。使い捨てのようで、回収はしませんでした。

▲ 天空列車はトイレの窓が内側に少し開く  ここからコンパクトデジカメを外に出して列車を撮影

格爾木を発車した列車は、荒涼とした砂漠地帯を走ります。カーブでは、3号車の窓越しに14両先の機関車まで見えますが、ガラスの反射でうまく写真に写りません。

トイレの窓が、内側に少し開くことに気付きました。この隙間からコンパクトデジカメ(一眼レフは大きくて無理です)を外に出し、前方に向けてシャッターを押すと、何枚かに1枚は使えそうな写真が撮れます。

天空列車“トイレの車窓から”

▲ トイレの車窓から 天空列車N919次快速の編成

この列車は臨時列車のためか、硬臥は1〜3号車は満席ですが、4号車には空席があり、前方の15〜12号車の硬臥にも空席が目立ちます。プラチナチケットのはずの、わずか2両の軟臥も、下段は全て埋まっていますが上段には空席がチラホラ。硬座に至っては、乗車率50%以下でしょう、号車によっては誰も座っていないボックスや、横3人がけを占領して寝ている輩もいます。

▲ 天空列車の車窓から 崑崙山脈の山々

やがて列車は高度を上げていき、海抜4000mを越える凍土地帯に入ります。夏は緑の草原が広がり、その向こうに6000m級の崑崙山脈の山々が連なります。

世界第三の広さを持つ無人地帯といわれる可可西里(ココシリ)では、ときおり車窓を野生動物が横切ります。

青海チベット鉄道最高地点の手前、標高4823mの布強格駅で停車します。青海チベット鉄道は単線です。列車交換のための停車は何度かありますが、乗降の扱いはしないようです。

▲ トイレの車窓から 拉薩発上海行きT165次特快と列車交換

一般に、中国の列車のトイレは垂れ流し式です。そのため、停車駅が近づくと、車掌がトイレを使っている人を追い出して鍵をかけてしまいます。でも、この青海チベット鉄道は飛行機と同じ“ボソッ”と音がして吸い込む真空式のトイレのため、停車中も中に入れます。

トイレの窓を開けてカメラを差し出し待つことしばし、近づいてくる機関車のエンジン音を聞きながら何回かシャッターを切ったところ、使えそうな写真が1枚だけありました。時刻から推測して、この列車は拉薩発上海行きT165次空調特快と思われます。

再び、天空列車“トイレの車窓から”

▲ 標高5072mの世界の鉄道最高地点を超えたところにある5068mの唐古拉(タングラ)駅

15時45分頃、海抜5072mの青海チベット鉄道最高地点を通過します。車内にときおり表示されるLEDの高度表示に気を取られていて、線路脇にある最高地点の碑を見落としました。写真に撮ったはずの5000mを超えるLEDの表示は、シャッター速度が速すぎて半分しか写っておらず失敗です。

最高地点を過ぎた直後に通過した世界で一番高い駅、“唐古拉”の駅名だけは、何とかカメラにおさめました。

ところで、この車両はボンバルディアの技術で飛行機のように車体全体が与圧されているなどといわれていますが、トイレの窓を開けても空気が勢いよく漏れるでもなく、圧力による高度計が付いた時計を持っている方によると、車内で正しい高度が表示されるとのことで、与圧は??です。

▲ 錯那(ツォナ)湖を背景にヤクのシルエットが浮かび上がる

太陽が西に傾きはじめた頃、列車は錯那(ツォナ)湖の湖畔を走ります。湖面の反射に、チベット高原に生息する毛の長いウシ科の動物、ヤクのシルエットが浮かび上がります。

この列車、臨時列車のためか、定期列車は停車してホームに降りられるという、那曲(ナクチュ)駅を通過してしまいました。結局、西寧−拉薩間で、ホームに降りることができたのは格爾木だけです。

夕食時に食堂車でビールを飲んだら眠くなり、ベッドでウトウトしているつもりが3時間近く寝込んでしまい、起こされたときには列車が終着の拉薩駅のホームに滑り込むところでした。

▲ 終点拉薩駅に到着したN919次快速 駅の案内にチベット文字も

拉薩駅は広いホーム、高い屋根、発着番線は少ないものの、北京駅や上海駅より立派と見受けます。この列車は、明日の拉薩発西寧経由成都・重慶行T24/T224特快として折り返すようで、車体横のサボが、すでに掛け替えられています。

換票証と交換に戻してもらった切符を記念にもらおうと、駅に申し出ようとしたところ、改札口では切符は受け取らず、全員の手元に残ることになりました。

▲ ライトアップされた夜の拉薩駅

駅を出ると、闇夜にライトアップした白い拉薩駅が浮かび上がります。ここは標高3600m、空気の薄い世界です。

青海チベット鉄道の旅行記は、こちらをご覧ください

 

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